| ◆3枚の写真と荒川さん
3枚の写真が新聞の一面に載っている。左から安藤さん、荒川さん、村主さん。そうです。トリノオリンピックのフィギュアにエントリーしている3人です。安藤さん、村主さんは口を開けて微笑んでいます。一方荒川さんと言えば、口を真一文字につぐんで怒ったような顔をしています。この写真をみて、荒川さんが一番活躍するなと直感しました。それほどまでに、荒川さんの並々ならぬ決意をその写真から感じ取ったのでした。そして、荒川さんはミスのない演技で金メダルを獲得しました。本当はミスがあったのですが、演技の流れで3回転のところを2回転に修正したとのこと。これで、致命的なミスを回避できたらしい。ライバルがミスで得点が伸びなかったのに対して、ほぼ荒川さんのイメージどうりの演技ができた。何よりも、自分らしさを表現できたそうです。今ならだれもが知っているイナバウアーも得点に結びつかない演技にもかかわらず、荒川さんは自分らしさにあくまでもこだわった。今やイナバウアーという言葉は荒川さんの代名詞となって、日本中のみならず世界中の話題をさらう事になった。今回の荒川さんの金メダルは、「スポーツはやはり自分らしさすなわち自己表現である。」とあらためて感じさせられた。
◆無名の選手の勇気
自己表現とスポーツとを結びつけてくれたのは、日本のノルディック種目を陽のあたる場所に押し上げた荻原健司氏である。(『自己表現』については、ホームページの塾長のコラムに書いています。興味のある方は読んでみて下さい。)荒川さんは文句なく注目され賞賛されたが、わたしに一番感動を与えてくれた選手がいる。スラロームの生田康宏選手である。彼は世界選手権の出場経験もなく、オリンピックにももちろん一度もでたことがない無名の選手で、今回が初めての晴れ舞台であった。当日雪のコンディションが悪く、旗門不通過やコースアウトで次々と有力選手が途中棄権した。生田選手もコースアウトした一人であった。しかし彼はコースアウトしても、ちゅうちょなく元にもどってゴールまで滑り終えた。もちろん100分の1を争うスラロームでは、順位だけを考えると、元にもどって滑っても無駄な徒労に終わることは誰もが知っている。だから、もどることには本当に勇気がいる。2回目も彼はコースアウトしたが、またもや元にもどって滑った。
◆あきらめない精神力
レース前、彼は友人に「どんなことがあっても、ゴールまで滑る。」と約束したそうだ。その言葉どうり2回とも滑り終えた。結果だけを見ると、当然最下位であるが、そのプロセスは「あきらめない」と言う強い意志で貫徹されている。熱いものを、感じた。それは、私がトライアスリートとしてトライアスロンに挑戦してきたからだろう。トライアスロンでは「完走できれば、勝利者。」という考えが至極自然に受け入れられている。200キロ近くの距離を水泳・自転車・フルマラソン3種目で挑戦するトライアスロンは「自分との戦い」であり「あきらめない」精神力が求められる。種目・距離は違っても、生田選手のとったこの行動の中に、私が大切にしているものを見いだしたからにほかならない。私も今まで色んなレースに出場したが、リタイアしたことは一度もない。
彼の行動は、多くのアスリートに勇気を与えたであろう。結果のみに目を向けるのでなく、そのプロセスに意義を見いだす。その勇気ある行動ができた唯一の選手は、生田康弘という日本人だけであった。このレースをみて日本人としての誇りを強く感じたのは私だけではなかっただろう。 |