[EQ 読書 学習塾]苦楽園読書くらぶ
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塾長のコラム

ハト

◆傷ついたハト

 1月のある日曜日、中学生の特別勉強会が終わって、駐車場の方へ行くと、道路の路かたにハトがぐったりと倒れている。あたりには羽根が散乱している。どうも車にぶつかったらしい。ショックでぐったりとしているが、そのままにしておくと車にひかれてしまうので、ハトを両手でつかんで塾に戻った。中位のダンボール箱の上部に空気穴をつけ、下部には新聞紙を細かくちぎってシキワラをひいてやった。足で立つ力もなく横たわったままであった。とにかくハトの状態を見てもらおうと近くの神原獣医科に行ったが、あいにくと休診であった。その日は、そのままハトを自宅に持って帰り、水と白菜の葉っぱをやったが食べる気力もなくぐったりしたままだった。

◆神原先生

あくる日の午前、再び神原さんの所に行った。野生動物を保護するための指定病院があるらしく、「自分とこは、指定病院じゃないんやけどな・・・。」と言いつつ手はハトをつかんでいた。これは獣医さんの本能か?そのまま診察してくれることになった。ハトはつばさの根元のところが3〜4cm四方にわたって、羽根がもぎとられ、ブツブツとした鳥肌になっている。そこにヨーチンを塗り、注射を1本打った後、「このまま離しても飛べないから、猫や野生の動物にやられてしまうな。羽根が生えそろうまで1ヶ月位かかるけど。あなた飼いますか?」と。私はハトを飼ったことは一度もないので少しちゅうちょしたが、これも何かのご縁。「飼います。」と返事した。神原先生からハトのエサをもらい「診察料はいくらですか?」とたずねると、「いらない。」との返事。言葉はぶっきらぼうであるが、顔がニコリと笑っていた。

◆ハトの世話

 それから、ハトとの生活が始まった。ダンボール箱では小さいので、犬用のケージを物置から出してきて、それにハトを移した。私を危害の与えない動物と認めたのか、少しずつ慣れてきた。足で立ち歩くようになり、足をたたんで座るようにもなった。ハトの世話で大変なのはフンの処理である。2日おきにそうじしないとケージの中はフンだらけである。ケージをそうじするのにハトをダンボールの箱に移し変えるのだが、1週間も経つたころには元気になるとともに、つかまえようとすると反抗する。以前よりも身体に力が入るようになってきた。10日程過ぎた頃、ハゲていた皮膚にストロー状のものが生えてきている。ハトの自然治癒力に驚嘆させられた。日一日と元気になり、食欲も旺盛となった。夜に「ホウホウ」と鳴いている。あたかも「心細いよ。自由になりたいよ。」と言っているようであった。ハト語が分かればなあ。例のケージそうじの時、脱走して机の下の方にかくれんぼして大変な目にもあった。折角生えてきた羽根がしっかりする前に痛めてしまわないかと心配した。やっぱり、野生のハト。こちらの思うようにならないのだ。せまいケージの中で盛んにつばさを広げようとする。「もう、だいじょうぶ」と言わんばかりの行動のように見える。神原先生の言っていた通り、羽根がずいぶんそろってきている。もうじきお別れだな。

◆ハトはどこだ

2月の末、ハトに出会ってから約1ヶ月。再び、神原先生をたずねた。羽根を広げて「これなら大丈夫やろ。放してやってもええ。できたらハトのたくさんいる所に放してやって。」とやはり優しい神原先生。神原先生に新品のハトのエサを手渡し、お礼を言って院を後にした。

 次の朝、神原先生のすすめてくれた西宮神社の方に行くが、ハトの姿が全く見られない。しばらくハトが来るのを待ったが、一羽のハトも来ない。ハトの来る時間があるのかも知れない。別の場所を探すことにする。ハトのよく集まるところと言えばお寺ということで、神呪寺へ。ここもハトの姿は見られない。たまたま出会ったおじさんに相談すると、夙川の土手にたくさんいるとのこと。車を走らせて阪急苦楽園口の夙川の土手に行くと、いるわ、いるわ50羽位のハトがひなたぼっこをしている。(ところで、最近近くの樋之池公園にたくさんハトがいたと後で気がついたのだが、「灯台下暗し」とはよく言ったものだ。)

◆野生の証明

土手にケージを置き、ケージの扉を開けてしばらく様子をみる。さっさと出てくるかなと思ったが、意に反してすぐに出てこない。おもむろにケージから出てくると、久しぶりの外界の空気を満喫しているかのように見えた。つばさを広げ、毛をそば立たせるような仕草をした後、対岸に向かって何とも頼りなさそうに飛んだ。やはり、1ヶ月ぶりの飛行だ。よたよたと言った表現が当てはまるほど心もとない。思わず力が入った。私が飛ぶわけではないのだが、これしか応援のしようがないのだ。またもとの土手にもどってきたが、1回目よりも力強く飛んだ。やった。やはり、飛ぶことは忘れていないのだ。ハトにとって飛ぶことは、人間が歩くことを忘れないことと同じぐらい当たり前のことなのだ。そして飛べなければ、猫や野生動物に食われてしまう死活の問題だ。それにしても、すごい。感動してしまった。

◆別れ

その後しばらくの間歩き回っていたが、1羽がいきおいよく南の方へ飛び立つと、他のハトもそれにつられて一斉に飛びだった。そして、私のハト(私はこのハトに名前をつけなかった。情がうつるのを恐れた。最初から野生にもどそうとしか、考えていなかったからだろう。)も同時に飛びだった。それは、おっかなびっくりのハトを促すかのような一瞬の出来事であった。私のハトと他のハトとの区別はもうつかない。「元気でな。」と一言つぶやいて見送った。野生に戻してやったという充足感と一抹のさびしさを感じつつ、豊岡市のコウノトリのことを思い起していた。口で言うのは簡単やけど、大変なことなんや、野生にもどしてやるって。


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