平成18年8月14日
◇遺影をもった人
ホテルの喫茶室で朝食。7時48分出発。5〜6分走ったところでオドメーターがないことに気付き、ホテルに戻る。オドメーターがないと距離が分からないので、予定がたてられない。そういう意味では自転車で移動するときの必要不可欠なグッズだ。気を取り直して出発。加茂川を渡って64番札所前神寺へ。11号線を65番札所とは逆方向に走る。8時頃到着。前神寺は平地にあるお寺で広い敷地を持ち、まわりが木々に囲まれたお寺らしいお寺である。石鉄権現の別当寺にもなっており石鑓山の「お山開き」には前神寺に参拝し、ご本尊に祈願をしてから登山するらしい。朝はあまり人影もなく数人がお参りに来ていた。その中に私と同世代と思われる男性が奥さんの遺影を持ってお参りをしている。心が痛む。声もかけられず、少し会釈するのが精一杯であった。亡くなった人の供養のためにお遍路をしている人も多いと聞くが、私もその一人には違いはない。
◇自転車店発見!!
次の65番札所三角寺までは47キロの長丁場。11号線をもと来た方向へ戻る。右手に松山自動車を見ながら西条市から三島市に向けてひた走る。国道のところどころに水田があり、その横を通る心地よい冷気を送ってくれる。天然のクーラーだ。『涼しか〜。』11時ごろ三島市の手前で「スプリング」と言う屋号の自転車屋さんを発見。スペアのタイヤチューブを購入する。それまではパンクするのが恐かったが、これで解消される。初日のパンク以来、歩道をさけほぼ車道を走ってきたが、時として歩道の方がいいときがあった。これで気兼ねなく歩道も走れる。
65番札所三角寺は三島・川之江インターの近くにあり、11号線から333号線に入り山手を登ったところにある。分岐点のところで車道と遍路道の案内があり、この時もどういう心境かフラフラと遍路道の方へと行ってしまった。暑さで色んな判断が狂ってしまったのか。
◇迷子になる
農業用に使われていると思われるコンクリートで舗装された細い道を登る。最初は緩やかであったがだんだんと険しくなり、自転車をおりて自転車を押す。しかし山道はさらに険しく道幅も狭くなり、とても自転車を押して登れないようになった。10キロを切るロードレーサーなら担いで登れたかもしれないが、今乗っているマウンテンバイクは15キロ位ある。サイドバッグを合わせると20キロ近くにもなる。とても担げない。そこで自転車を置いて、歩いて登るか、それとも戻るかの選択を迫られた。折角ここまで来たのにと言う思いもあったが、結局もどることにした。
今までずっと自転車でお寺の山門まで登ることにこだわってきた。お遍路では一人でお寺を巡っているのでなく、お大師さんと一緒に巡っているという「同行二人」(どうぎょうににん)と言う考え方をしている。私は同時に自転車とも同行している。先にも書いたが「同行二輪」である。もと来た道を戻る。回りはみかん畑で、自動のスプリンクラーが水撒きをしている音がするだけで人気がない。どうも迷ってしまったようだ。幸い自動車が山の方に登るのがちらっと見えた。その方向に向かうと車道に出ることができた。寺への標識も見つかり、狭く急な坂を登る。この坂は4キロ近くあり、かなり苦労する。三角寺に着いたのは1時過ぎで、途中の道草で1時間近くロスしたようだ。これが次の雲辺寺に大きくしわよせが来た。
三角寺の仁王門まで急な石段を登る。この大師堂は本堂のあるところからさらに石段を登ったところにあり、靴を脱いで板の間に上がるようになっている。今回のお遍路の中で一番印象に残った大師堂である。ゆったりとおまいりができた。山道を下って192号線に合流し、次の雲辺寺に向かう。金生川に沿って192号線を走る。川之江市街にある椿堂を越えると、坂道が5キロ近く続く。3時30分、峠になっている境目トンネルを越えると少し下ったところにうどん屋があり、食事と雲辺寺についての情報をえることにした。昨日は時間に追われて昼食抜きだった。時間が心配であったが、「腹が減っては、いくさはできぬ。」と理屈をつけて食べることにした。
◇雲辺寺ロープウェイまでの遠い道
そこの主人に雲辺寺までどのくらいかかると聞くと「20分位かな」と言う返事。雲辺寺まであと14〜15キロはあるのでおかしいと思い、「自転車では?」と質問を変えた。「え!自転車ですか?」。20分と言うのは自動車でと言う意味だったようだ。この世では全ての基準が自動車になっていることに、あらためて気づかされた。「どんな道か」と聞くと「境目トンネルの手前の坂よりもう少し急かな」とのこと、暗雲がたちこめてきた。雲辺寺にはそのまま192号線から分岐した8号線を走り、まんだトンネルをこえてロープウェイをめざすか、山道を登って雲辺寺まで登るかのいずれかであるがもう4時前である。三角寺の下りで出会ったおじいさんに雲辺寺のことを尋ねると「山道を走ったら今日中には着くだろう。」と言われたことを思い出し、迷わずロープウェイに乗るほうを選択する。
8号線からまんだトンネルに向かうが4キロの坂道が続く、短いトンネルを抜けた後は下りであった。なかなかロープウェイが見つからない。行き過ぎたのではないかと気をもむ。もっと標識を出してくれていたら助かるのだが・・・。五郷ダムを越え変則の交差点を右へ迂回すると、雲辺寺まで3.4キロという標識が出ている。ずっと下りで平地からロープウェイが出ていると想像していたが、それは見事に裏切られてしまった。残り3キロは坂道を登るということが分かる。心なしか気落ちするが、気を取り直して山道にアタックする。
◇今日も無理をしてしまった!
とにかく時間的にギリギリなので、最悪の場合ロープウェイ付近に宿泊するしかないと思い、ロープウェイに直接電話をかけてみた。すると宿泊するところは「ない」との返事。私が「こまったなあ〜。」と言うと、すぐその後「5時のロープウェイに乗れば、納経してもらえますよ。」という係員の救いの言葉が帰ってきた。「とにかく頑張ってそちらに向かいます。5時までに着くよう努力しますから、待っていてくださいね。」と返答した。残り3キロを必死で登る。またまた、横峰寺の再現だ。もう時計も見ず、ひたすらこぎ続ける。
なんとロープウェイ乗場に着いたのは5時5分前であった。人間追われれば思わぬ力が湧いてくるものだ。頭の上から「無理をなさらずに・・・。」と言う横峯寺での言葉が聞こえてきた。あ〜あ〜、今日も無理をしてしまった。5時出発のロープウェイに乗るのは私一人であった。ロープウェイの近くの売店も店じまいをしつつある。下りのゴンドラと途中ですれ違った。10数人乗っている。こちらは一人なので下りのゴンドラの乗客は少し驚いたような顔をしている。ロープウェイをおりるとお迎え大師の石像の横の坂道を下る。誰もいないひっそりとした境内を急いで納経所に向かう。納経所ではご住職が待っていてくださった。ありがたい。境内はおびただしい五百羅漢の石像が一種異様な雰囲気をかもし出している。もう一度じっくりと訪れたいお寺であるの一つである。「5時30分までに帰ってきてください。」とロープウェイの案内の女の子に言われていたのでゆっくりもできず、あわててロープウェイにもどることになった。ロープウェイの山麓駅に戻り、山を下る。
4キロほど下り、24号線に入る。次の大興寺の近くまで移動することにする。国道沿いで観音寺国民宿舎の看板を発見。予約はしていないが行ってみることにする。あいにく満室で断られるが、遍路宿『大平』さんを紹介してもらう。7時過ぎに大興寺の裏手にある太平さんに到着する。宿泊客は私を含めて3人。そのためか16畳もあるかと思われる大きな部屋に案内される。がらんとした部屋でなんとも落ち着かない。食事はとてもおいしく毎日1本のビールを心ゆくまで味わう。1日の終わりの恒例の儀式である。宿泊費はビールこみで6,500円。お風呂にすぐは入れなかったのは不満が残るが、満足のいく宿泊ができた。納経札への住所氏名の記入や、お寺間の距離をメモ帳に書き込むなど明日の準備をして、10時頃就寝。 |